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| プロローグ 「盲点力」って何だ? |
| ●何でも溶かしてしまう液体を入れる器はあるか? |
| 古くから化学者がその発見に知恵を絞ったものの一つに、「万能の溶剤」があります。どんな物質でもたちまち溶かしてしまう液体のことです。 そういう液体があれば、たしかに便利だろうとは思うのですが、ハテ、それがほんとうに世の中に必要なものなのかどうかはわかりません。 不老不死や若返りの薬と同じで、不可能に挑戦する化学者の熱狂的なエネルギーが原動力となってきたのでしょう。 ある二人の化学者も、この「万能の溶剤」の発見に取り憑かれていました。 彼らは銀行家を説得して資金を出させ、小さな研究所を建てて研究に没頭していました。 そこに、ふらりと一人の農夫がやってきました。農夫は二人の化学者の様子をしばらく眺めていましたが、我慢しきれずに尋ねたそうです。 「何をしているのですか?」 化学者は胸を張って答えました。 「わたしたちは世界でいちばん大切なことを研究している。わたしたちは万能の溶剤を研究しているのだ」 と言われても農夫にはわかりません。 「それは何のことですか?」 「中に入れるものを何でも溶かしてしまう液体のことだ」 そこで農夫は感心したようにこう言いました。 「へえ、そりゃ素晴らしいことだ。でもいったい、どんな入れ物の中に入れておくのですか?」 「……」 この愉快なエピソードは『創造性の開発』(ヴァン・ファンジェ著・岩波書店)という本の中に紹介されているものです。一つのことに熱中している人間は、しばしば肝心なことを見落とすというたとえにも受け取れますし、緻密なつもりの思考にもしばしば単純な欠陥が存在するという指摘にも受け取れます。 いずれにしろ、「言われてみれば、まったくその通りだ」という着眼は、特別なものではないし、難しいものでもありません。いわば、盲点を突いているのです。 |
| ●「死角」や「盲点」があなたの考え方を狭くする |
| わたしたちはふだん、「これしかないはずだ」と思っても行き詰まることはしばしばあります。 研究や開発やプランニングといった仕事に関わることだけでなく、人生の選択から遊びの計画に至るまで、思わぬ障害や解決困難な問題に直面して困惑することがあります。 あるいは、何の問題もないと思われていた計画だったのに、いざ実行の段になって大きな計算違いに気づかされることもあります。 そういうとき、意外な人物に意外なアドバイスを与えられて、愕然とすることがあります。 「なんだ、そんなこと。こうすればいいじゃないか」 とか、 「この前提はちょっと無理じゃないか」 といった具合に、まさに盲点を突かれることがあるのです。 すると、たちまち目からウロコが落ちた気分になってしまいます。十分に考え尽くしたつもりでいたのに、いったい何を勘違いしていたのかと驚くのです。 それからこういう話があります。 マゼランが世界一周航海を続けていたとき、文明から長い間隔離されていた南の海の孤島では、そこに住む人たちの目にマゼランの船が見えなかったそうです。 彼らの想像を絶する巨大な船が、水平線に姿を現わしても、それを誰も船と認めることができなかったのです。 ではどう映ったか? 見えなかった。ただそれだけのことです。 とうとう船が島の入り江に入ってきて、その巨大な姿を間近に見せたときに初めて、住民たちは驚愕したというのです。 「そんなバカな」と思うかもしれませんが、この話にはとても示唆することが多いように思えます。 わたしたちは、自分たちの価値観や世界観とまったく異質なものは、見えないのです。それが科学的な発見なら一笑にふそうとするし、他人の意見なら聞く耳を持ちません。これは、見る目を持たないということと同じです。 盲点のメカニズムは生理学的にははっきりしています。人間の網膜には無数の視細胞が張り巡らされていますが、視神経が通っている場所に視細胞はありません。だから、目線を動かさない限り、どうしても見えない部分がつねに存在し続けます。 つまり、一点を凝視すればするほど、盲点が生まれるのです。 この事実は、そのまま、わたしたちの「盲点」を指摘しているようです。 何かに熱中すると視野が狭くなること。 一つの考えにこだわってしまうと他のものが見えなくなってしまうこと。 そういったことがたぶん、わたしたちの「盲点」を生み出す原因になるはずです。 |
| ●「子ども」と「盲点力」と「好奇心」の共通点とは? |
| 逆に考えれば、ありのままの現実を受け入れる人や、ものごとをさまざまな角度から見つめられる人は、「盲点」にすぐに気がつくことになります。 ◎常識や先入観にとらわれない。 ◎ものごとをうわべだけで判断せずに、裏側や陰の部分にも注目する。 そういった気持ちを忘れない人が、とかく見落としがちな「盲点」に目が行き届く人ではないでしょうか。つまり、「盲点力」のある人です。 「盲点力」のある人は、好奇心を失いません。ものごとをさまざまな角度から見つめられるというのは、子どもが初めてのオモチャを手にしたときのように、そこにたくさんの可能性を感じ取ることができるからです。 したがって、「盲点力」のある人は困難を苦にしません。たいていの人が投げ出したり、挫けてしまったりするような場面でも、「ちょっと待てよ」と考え直し、「この手があるじゃないか」と解決のプロセスを楽しんでしまいます。 だから、「盲点力」のある人は朗らかです。 どんな逆境でも軽く一ひねりして、自分の楽しみや幸せを見つけてしまいます。 あるいはどんなに順調でも、油断や慢心することなく自分の人生を楽しみます。 こういう人は、やはり朗らかとしか言いようがありません。「盲点力」のある人は、どんなときでも表情豊かに、フワリフワリと人生を楽しむ達人と言えるのではないでしょうか。 じつは、わたしのこれまでの人生も、盲点探しを楽しむ人生だったような気がします。 着想やアイディアの盲点をたっぷり楽しんできたし、頭の体操もマジック好きも考えてみれば人の目の盲点を突く楽しさです。心理学の道を志したのも、人の心の影の部分に興味があったからです。 その楽しさを、みなさんと分かち合ってみたい。 息苦しい時代を爽やかに乗り切るためにも、ぜひ「盲点力」を育ててください。 |
| 第1章 「盲点力」が強くなれば、新しい自分に出会える! |
| クリップもファスナーもバカげた発想?の産物だ |
| あるグループが、二本の針金を結ぶ方法をありったけ考えました。 みんなでワイワイ、それこそおかしくてバカげていて吹き出すようなアイディアも飛び出して意見を交わし合いました。 でもこういう席では、冷ややかに眺めてばかりの人間が必ずいるものです。 その人たちは、「こんな話し合いはバカげている、くだらない」と思っています。いわば批評家グループです。 「子どもじみたくだらないアイディアを出し合って、それがいったい何になるのか!」 まさに大人びた意見ですが、その意見に対して、グループの一人が質問しました。 「いったい、どこがくだらないのか。どうせならいちばんくだらないアイディアを挙げてみてくれ」 そこで批評家グループが話し合って、これがいちばんくだらないというアイディアを挙げました。 それは、針金と針金を自分の歯で押さえるというアイディアでした。 たしかにこれは幼稚なアイディアです。二本の針金を手にした幼児が、真っ先にやりそうなことです。 しかし、アイディアを出し合ったグループのリーダーは落ち着いていました。 「たしかにくだらない。でも、このくだらないアイディアから何か思い出さないか?」 批評家グループはしばし黙り込み、やがて気がついたそうです。 「アリゲーター・クリップ」 金属の歯がついた洗濯ばさみのような器具です。理科の実験などでよく使われる、コイルとコイルを結んでしまういちばん簡単な器具です。 「ファスナー」 これも発想は同じです。しっかり噛み合わせる。しかも移動ができる。製品化まではいくつものアイディアが加えられたでしょうが、根本の発送は噛み合わせることです。 つまり、どんなにくだらないと思われるアイディアでも、その発想の根本を活かして利用することはできるのです。「くだらない」と切り捨ててしまえば、何も始まらないし、何も生まれません。 しかも、いまのエピソードのように、わたしたちの身の回りにあるたくさんのものが、最初は「くだらない」とか「バカげている」と嘲笑されたような発想から始まっています。飛行機だって、大空を自由に飛び回る鳥を見つめた人間がいたから現在の進歩があるのです。 ところが大人の常識というのは、高度に進化し、完成度の高い商品には目を奪われても、その商品を支える「根本の発想」にはなかなか目が行きません。そこが、いわば盲点になってきます。 つまり、わかっているようでわかっていない。車の運転がいくら上手でも、エンジンがなぜタイヤを回転させるのかわかっていないのと同じです。 大人の常識なんてその程度のものですから、過信しないこと。 むしろ「くだらない」と笑い飛ばすアイディアの中に、じつは意外な盲点が隠されていることが多いのです。そこに気づく力が「盲点力」なのです。 |
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