立ち読み Shinkosha Book Web 新講社

「上司が読める」と面白い
渋谷昌三
ISBN: 4-86081-057-0 C0095
発行年: 2004年11月01日
定価: 1,365円(税込)



<1-1>「間違いない!」という上司は、部下に同意を求めている

  「絶対に、そうだ」や「そんなの当たり前」という言葉もそうですが、「これは間違いない」などの言葉をよく使う人の心の中には、自分の考えをなんとかして「認めさせたい」「言いくるめたい」という欲求があると見ていいでしょう。
 どんな分野の研究においても、学者がひとつの仮説を立て、さまざまな実験をくりかえし、ぼう大なデータを入手し、その仮説が正しいことを実感したときには、「これは間違いない!」という言葉が口から出ます。心の中に「確信」が生まれたのですね。
 ところが、仕事の場において、上司が部下に「これは間違いない!」というときには、確信したからではなく、自分の考えや言い分をむりやり納得させるために、思わず口走ることが多いようです。
 上司が指示を出しているのに、部下の「ノリ」が悪く、その半信半疑の表情を見ていると、自分の考えにも自信が持てなくなってきた……けれども上司という立場上、自分の意見を引っ込めるわけにもいかない。そんなせっぱつまった状況のときに出る言葉が、「絶対に」「間違いない!」であり、強調することによって部下に押し込み、同時に、自分にも言い聞かせているという図式です。だから学者のように確信に満ちたものではなく、上司としての威厳を保ちつつ、これで大丈夫なはず……という、祈りにも似た思いが吐露された瞬間なのです。だから、部下が上司に、
「そうですね。この仕事、うまくいきそうですね。もう一押ししてみましょう!」
と、答えると、上司は救われたような気持ちになり、
「よし。絶対うまくいく。間違いない!」
と、なぜかカン高い声を発します。上司は、誰かの同意がほしいのですね。
これは、がんばろうという気持ちの表れでもあり、部下を鼓舞させるためには必ずしも悪いこととはいえませんが、「間違いない」と部下にも自分にも言い聞かせないと自信が持てないならば、その仕事は再考の余地ありということなのでしょう。けれども、だいたいが、そのまま突っ走り、後でひどいことになりますね。
上司が「絶対に」「間違いない」という仕事ほど、心の中では不安を抱え、また不確定要因をたくさん内蔵している仕事であることも多いものです。


<1-10>「いいんじゃないか上司」も「なるほどな上司」も、人の話は聞く気なし

「例の議案ですが、こんな感じでいでしょうか?」
 部下がメモを渡すと、ささっと見た上司が、
「ま、これでいいんじゃないか」
 と答える。職場ではよくあることかもしれませんが、これがたびたび行なわれているとすると、よほどできる部下に恵まれていない限り、この上司は大丈夫なんだろうかということになるでしょう。
 部下の申し出に対して、あまり考えるふうもなく「大丈夫だろう」「いいんじゃないか」とうなずく上司の心の中は、「自分で考えてくれよ」であり、「そんなことでいちいち聞くなよ」である場合が多いものです。上司は、よく「自分が寛容に受け入れることによって部下の自主性を育てている」などともっともらしい言い方をしますが、これはタテマエで、ホンネは面倒くさいからということも多いと思うのです。
 管理職の立場からすれば、本当に「それくらい自分で考えて処理してほしい」と思うこともあるでしょうが、それが正しいと思うなら、きちんと「自分で処理しなさい」といえばいいことです。
 それをせずに、「いいんじゃないか」と答えるのは、仕事時自体にやる気を持っていない「腰掛け上司」ともいえますし、部下としてはあまり当てにしないほうがいいかもしれませんね。
「なるほど」を連発する上司も、少々注意が必要です。「なるほどな」といわれると、確かに人の話は聞いてくれているようですが、その裏には、「その話題はもういいよ。早く次の話をしたい」であったり、「もうわかったよ」という、うんざりした気持ちが隠れていたりすることもあります。どちらにせよ、「もう聞きたくない」のです。
 ときどき、こちらがいい終わらないうちに「はい、はい。そうですねえ」や「なるほど」を連発する人がいますが、こういう人は聞く気がないことに加えて、自分が話したくてしかたがないのです。そういう人に限って、仕事の話ではなく、世間話がしたいのですからやはり当てにならない上司ですね。


<3-5>貧乏ゆすりが止まったとき、上司の心にスキができる

 届くはずの部品が時間を過ぎても届かない。届いてからの作業を入れると、あと三十分遅れたら、納品が間に合わなくなる……。
 こんな危機的状況になると、人はイズに座っていられず、机の周りをウロウロ歩いたり、ペンで机をコツコツたたいたり、貧乏ゆすりをしたりしてしまいます。あまり格好のいいものではありませんが、納品が遅れ、信用をなくしたり、金銭的な損害が出たりするような場合は、これもやむを得ないことだと思います。
 体を動かすことで、少しでも不安を解消しようという自衛本能が働いているからです。
 しかし、せっぱつまった問題を抱えているわけでもないのに、やはり足を細かく動かしたり、コツコツと指を机でたたいていたり、同じような不安解消法を行う人もいます。
 彼らの場合は、緊急事態によって強いストレスを感じているのではなく、慢性的にストレスや不満をため込んでしまったことが原因です。
 家庭生活がうまくいっていない、仕事が思うようにいかない、何をやっても面白くない、隣の芝生が青く見える……など。
 これといった我慢できないものがあるわけではなくても、「日々なんとなく」の不満を持っていると、ちょっとしたことでイライラしてしまう癖がつきます。それは癖ですから、いまイライラする原因が目の前になくても、貧乏ゆすりが止まらないのです。
 さて、貧乏ゆすりをしている上司や取引先の人に対しては、ちょっとした注意が必要です。彼らは、心のイライラが癖になっているために、小さなことでもカチンとなりやすく、痛いところを突かれると、すぐにへそを曲げ、キレやすい状態にいます。
 貧乏ゆすりの上司には、優しく同情的なトーンで声をかけること。心にもないことでも、いいのです。「課長、最近、胃の調子はいかがですか?」なども効果があります。このひとことで、上司のイライラは一時的に緩和されます。このスキに提案書を出せば、いい結果が得られる可能性も少しは広がります。あまりに過剰な期待は禁物ですが。




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