立ち読み Shinkosha Book Web 新講社

「二人きょうだい」の人のための本
多湖 輝
ISBN: 4-86081-062-7 C0095
発行年: 2004年12月22日
定価: 1,365円(税込)

まえがき
二人きょうだい
「お兄ちゃん」と「妹」
「お兄ちゃん」と「弟」
「お姉ちゃん」と「妹」
「お姉ちゃん」と「弟」
 これらの「組み合わせ」には絶妙のおもしろさがある。そして、それゆえのむずかしさがある。
 親から見れば、これほど楽しい関係はなく、またこれほど気になる関係もない。
 そこに子育ての醍醐味もあれば、苦労もある。
 外の人から見れば、よく似ている「きょうだい」も、親からみれば「同じわが子でもこれほど違うのか」ということになるし、「きょうだい同士」がおたがいを眺めれば「自分とはずいぶんちがうな」と実感することになる。
 二人は同じ親から生まれたのだ。元になる遺伝子はまったく同じだ。
 だが、二人にはそれぞれの個性がある。個性が出てくれば出てくるほど、二人は似て非なる存在となる。
 その個性のかなりの部分は、じつは「きょうだい」という関係性から生まれてくる。
 兄と妹では、兄は兄らしく、妹は妹らしく育つ。
 姉と弟も同じだ。姉は姉らしく、弟は弟らしく育つ。同性のきょうだいも同じだ。
 それぞれ、上か下に「きょうだい」がいることで、個性づくりが影響される。
 たとえば、蝶よ花よとかわいがって育てられてきた女の子のいる家庭に、妹か弟が誕生すれば、そのとたんから女の子は「長女」になる。
 するとどうなるか。
 親も親戚の人も近所の人も、女の子のことを「おねえちゃん」と呼び始める。
 親の心には「おねえちゃんだからしっかりしてね」という気持ちが芽生えるだろう。そして実際に口に出してそう言うようになる。
 その一言がこの女の子にとってどれほどの衝撃≠ニなるか。そしてそこに長女的な性格が出来上がってゆくことになるわけだ。
 同じ理屈で、上が長女らしくなってゆけば下の弟や妹は下の子らしく育つことになる。
 上が男の子の場合も同じだ。「きょうだい」という関係の中で、それぞれの個性が育まれるのである。
 親は同じように育てているつもりでも、当の子どもたちから見れば、親の口調、しぐさ、態度が明らかに違っていると感じることがある。
 敏感な子どもはその事に気づき、悩む。
「なんで自分には厳しいんだろう。ひょっとして自分はこの家の子ではないのかもしれない?」
親に言わせればとんでもない誤解だが、そういう誤解がいつでも生じる可能性があるのが「二人きょうだい」の関係なのだ。
 ふだん親が気づかない「きょうだい」関係の妙。そのおもしろさ、むずかしさをわかっていただくために、たくさんの実例を取り上げたつもりである。
第1章■─兄と妹──兄はドジで、妹はチャッカリ?
14 兄はくよくよ悩み、妹はてきぱきと裁いていく理由?
 ここからは兄と妹を育てる上で親として気をつけたいことを書いていきます。
 いずれにしても兄は親の大きな期待を背負って育てられます。「跡継ぎ」という考え方はこの国にまだしっかりと根を下ろしているからです。
 そこに妹が誕生します。ストレートに愛情を注げる妹の誕生に、大喜びしたはずです。
 そして「愛情は妹に、期待は兄に」とふり分けられます。少し極端な言い方ですが、親の気持ちとしては当たらずといえども遠からずというところではないでしょうか。しかしこれは兄にとってはいささか気の重いことになります。
 もちろん、兄もかわいがられないわけではありません。でも、妹のようにただかわいがられるわけではありません。期待を込めてかわいがられるのです。
 親の期待に応えなくてはと思うと、失敗はできないということが頭をよぎります。まずそこから考えるようになってしまうのです。そこで優柔不断になったり、失敗したことをくよくよ悩んだりするようになってしまいます。
 一方、妹は親の愛情を受けてのびのびと育ちます。「かわいい」と言われ続けているうちに自信も出てきます。そのわりに親の期待度は低いので、失敗をおそれずいろいろなことにチャレンジするようになります。
 この例は決して珍しいものではありません。親の期待とは裏腹に兄と妹が育っていくということはよくあることです。しかしそれはあくまで表面的なことです。
 たしかに長男は見た目には優柔不断ではっきりしないかもしれません。でもそれは慎重で、自制心が強いともとれます。
 たしかに妹はてきぱきと裁くけれど、その中心にはしっかり自分がいて、自分が損するようなことはしません。よく見るとそんな面もあるはずです。
 この章の冒頭で、兄と妹の組み合わせはいろいろな面を持っているのでおもしろいと書きました。兄と妹の隠れた面を見つけ出して伸ばしていくおもしろさもあるのです。
第2章■─兄と弟──ケンカも一つの「学習」の仲
16 兄の叱り方と弟の叱り方は、違いがあってもいい?
 兄には兄のプライドがあります。弟はまた、兄とは違うプライドを持っています。
 親が子どもを叱るとき、それぞれのプライドを傷つけないようにするのが、上手な叱り方と言えるでしょう。
 たとえば弟と比較して、「お兄ちゃんのくせに情けない」などというと、兄のプライドはズタズタになってしまいます。こんなときはあえて弟と比較せず、「お兄ちゃんなんだからもっとしっかりしてね」と、兄としての自覚を促すように叱ります。
 では弟はどうでしょう。一昔前は「お兄さんを見習いなさい」と叱られました。でも今弟に対してこういう叱り方をしてもあまり説得力はないでしょう。
 兄と比較せずに、たとえば「もう小学生なんだからもっとしっかりしてね」というように、年齢を意識させるような叱り方がいいかもしれません。
 ただ弟が兄の言うことを聞かず、だだをこねているようなときは、兄の肩を持って、助け船を出してあげてほしいと思います。
「そんなわがままを言わず、お兄ちゃんの言うことを聞きなさい」というような言い方でもいいでしょう。
 片方で、「お兄ちゃんなんだからしっかりしてね」というような叱り方をしているとしたら、お兄ちゃんらしくしているときは肩を持って、うまくバランスをとってあげてほしいのです。
 親の都合のいいときだけ「お兄ちゃん」を持ち出されては気の毒です。いじめは別ですが、兄が弟の前で少し威張ったようなことを言っていたとしても、聞かないふりをするくらいのことがあってもいいと思います。
 親はどこかで弟を甘やかしているものです。叱らなくてはならないと思うときも、「まあいいか」と見過ごしてしまうこともあるはずです。こんなことも、兄の肩を持つことで多少バランスがとれるのではないでしょうか。
第3章■─姉と妹──割り食う長女と利口な妹?
14 女の子同士だって激しいケンカをします
 姉と妹の年が近いと、小さいうちは取っ組み合いのケンカもします。そもそもきょうだいゲンカというものは、いつもささいなことから始まるものです。やれ「貸したおもちゃを返してくれない」「お姉ちゃんのほうが先にぶった」。忙しい母親にしたら「もう、いい加減にして!」といらだつことも多いでしょう。それが子育てと言ってしまえば、それまでですが、「女の子同士なのに、どうしてこの子たちは気性が激しいのかしら」と嘆く気持ちもわかります。
 しかし男の子ばかりでなく女の子もケンカはある程度必要です。ケンカをすることで、自分も痛みを知り、手加減を覚えていくのです。ただ、いくつかルールを決めておくことは必要です。たとえば、髪の毛は引っ張らない、顔はぶたない、謝ったら許すといったルールです。
 また女の子は口が達者ですから悪口もエスカレートしがちです。とくに最近の女の子は男の子顔負けのセリフを吐くことがあります。「テメー」「バカ」「死ね」などは言ってはいけない言葉だと、しっかりと教えておくべきです。
 しかし姉妹で体をぶつける激しいケンカをするのも、少しの間です。じきに懐かしい思い出になるものです。
 学生のうちはどちらが成績がいいかという物差しが働きがちです。
 またどっちが容姿がいいか、どちらかにボーイフレンドができたりもおたがいに気になるものです。
 思春期の頃にはそれがコンプレックスになったり、意地を張って仲が悪くなったりもします。これがすぎると冷戦≠ノなってしまいます。けれどおたがいに結婚して子育てをするようになると、肩の力が抜けてきます。
「うちでは妹のほうが早く出産しましたから、今ではわたしのほうが教わることが多いんですよ。けっこう妹を頼りにしています。逆転ですね」
 おたがいを認め合ういい関係です。
第4章■─姉と弟──弟を見て「男とはどんな生き物か」を学習する姉?
2 きょうだいゲンカをしたときに、母親は姉を叱りがち?
「子どもたちが悪さをしたときに、『あなたはお姉ちゃんでしょ』と、どうしても姉のほうを叱ってしまうんです。ケンカ両成敗という言葉がありますが、原因を聞いてみると、どちらも同じぐらい悪いんですけどね。でも、気がつくと姉のほうばかりを叱ってしまうのは、どうしてでしょうか」
 こんな相談を受けました。母親にとって同性である長女は、自分のいい面も悪い面も含めて自己投影≠オやすいのです。だから、自分の嫌な面と同じものを娘の中に見て、強くあたってしまうように思います。
「上の娘ばかり怒ってしまう」
 というこの母親は、自分の性格や行動でふだん見ないようにしていた嫌いな一面を、まるで鏡が映したように娘が目の前で演じるときに、ひどく叱っているのだとわかりました。
 たとえば、怒られて「ごめんなさい」とすぐに謝れないかたくなさが自分によく似ていて、腹立たしく感じたとか、そういうことです。
 この点、下の子(弟、妹に限らず)は、要領よくふるまいます。母親の顔色を見てさっと謝るか、どこかに逃げてしまいます。
 これは母親だけの問題ではなく、父親もまた男の子(この場合は弟)に自己投影することがあります。
 子ども時代にスポーツ万能でかけっこではつねに一番、少年野球ではキャプテンをつとめた経験があるような父親は、男は野球ぐらいできて当たり前という意識があって、息子に「キャッチボールが上手になれ」とか「お姉ちゃんのようにテキパキしなさい。男なんだからしっかりしろ!」などと連発します。
 弟はこうして姉に比べられることで、「女に負けてたまるか!」という反発心と精神的にめげないたくましさを身につけていくのですが、たまに姉に劣ることがコンプレックスになって、ナヨッとした男の子に育つ場合があります。
 姉と弟の性格もまた、家庭における両親が無意識のうちに作っているということです。

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